20140813_2
出典:いらすとや

特に得るものはないと思います


これはあるバカの記録です

 
20歳。

とあるバカは野心にあふれていた。
何者にもなれるであろう自分。
形容しがたい野心に満ち溢れたバカはその力のふるい所を求め、会社に入った

バカは会社に入ってからしばらく社員と交流し気付いた

この会社、堕落した奴らばかりだ

会社には入社当時とは違う道へ方向転換したり
あるいは一直線に業を磨いている人たちがいた

バカは特に方向転換して地に足つけてた人を軽蔑していた
自分の路線も定まらず、持っている中途半端なスキルで
ソレ以上の向上は望まず、日々を怠惰に過ごしている彼らを。
バカは適当にやっている彼らを見下した。

どうしてもっと高みを目指さないのだろう
どうしてその余分な時間をもっと技術習得を補ったりすることに使わないんだろう

一方で一直線に何かを極めた人たちのこともまた軽蔑していた
一つの技術に溺れ、他の事には無関心
それさえやってれば他はどうでもいいというスタンス
だから、バカは会社の人たちのほとんどを軽蔑していた

自分はこうならないぞと思っていた

全てにおいて何でもやって頑張って
そうすることが大事だと思っていた

そうしない奴らを酷く見下していた
全てをかけて頑張ってるごく一部が憧れだった
それがバカの野心の原動力だった
自分もあのステージに行かねばと焦っていた

ふわふわと、理想と現実の間を浮かんでいた



バカは20歳も半ばを過ぎていた。

バカは歳を重ねても尚、地に足つかぬまま
あれもこれも手を伸ばして何一つ極めることが出来ず
膨れ上がった理想の浮力で相変わらず宙にふわふわと浮いていた

バカに身についた事といえばただただ人を批評批判する能力だった

夢に浮ついて何者にもなれないまま
自分の膨れ上がった虚栄の可能性にばかりしがみついて
自分を天才かなにかと錯覚して
努力「してるつもり」な意識だけは高くなり

そうして、バカは何者にもなれないまま、堕ちて堕ちて堕ちていった
堕ちてることも自覚せず ゆっくりとゆっくりと確実に

堕ちた先は、地獄だった
気づいた時にはとっくに遅かった
しかしバカは、地獄の中でもどんぐりの背比べをして
自分はまだマシだと自尊心を守ろうとした

その自尊心は本当に努力してきた人たちから見てただのただ見苦しいものだった
堕ちた阿呆をそれでも使うにはバカとハサミは使いようであり
バカは奴隷のように扱われた
浮ついたままでは使い物にならないから、奴隷にするくらいしか
費用対効果が出なかったからだ

バカはそうしてようやく自分がもう取り返しのつかないレベルまで
落ちぶれていたことに気付き
周囲から何周も遅れをとっている自分に気付き

嗚咽した

どうして自分がこんなことに
バカは激しい羞恥心と憎しみに気が狂いそうになっていた
そこでバカは思った

 こんな風に育てた親が悪い
 何もしてくれなかった上司が悪い
 こんな辛い生き方を強要する世の中が悪い

バカにはもう、自分が堕ちた理由を探す他に方法が無かった

バカは人間として遅れに遅れた時間を取り戻すために
他人の何倍もの努力をプライベートも何もかもを割いて勉強する他無かった
皆が楽しそうにしている中、バカは地獄から這い出す事にだけ躍起になっていた
失った時間を取り戻すかのように、勉強に依存するかのように

原動力は恨みつらみ妬み嫉み僻みだった



 
そうして負の力を原動力にようやく地獄から這い上がったバカが見たのは
かつて侮蔑した人たちだった
侮蔑していた彼らは相変わらず地に足ついて、自分の生きかたをしっかり見定めていた
彼らは堕落なんてしてはいなかった
うまく生きていただけだった

バカは堕ちてようやく理解した

人を侮蔑するほどに自分が堕ちていくこと
自分が天才でも何でもないただのモブであること
自分の軸足を持った人間達を笑い者にして
軸足定まらない自分こそが浮ついた笑い者だったこと
自分こそが最も堕落してしまっていたこと

更に、バカは理解して、また嗚咽した
自分をこんな目に併せたのは
親でも会社でも上司でも社会でも誰でもない

自分をこんな目に併せたのは
自分だった

原動力となっていた恨み妬み嫉み僻みはバカを串刺しにした
そうして串刺しされることで
バカはようやく、膨れ上がった虚栄や慢心の浮力から開放されて
地に足つき、等身大の自分と向きあうことになった。

愚者は経験に学ぶ

バカはまさにそれを身をもって体験した
長い長い人生の時間を対価にしてようやくバカは学んだ


それからバカはログを残すことにした
自分のようなバカな道を歩んでくれるなと思って
自分のような愚か者にならないでくれと思って
自分が再び地獄に堕ちていっていないか気付くために


そんな救いようのない愚か者の、バカのお話
オチは特に無い