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 過去、コードギアス反逆のルルーシュという作品を奥さんに勧められ、観ました。全部観ました。面白かった。ゼロ年代アニメの代表作と言われて納得しました。もうそろそろ作品単体を話題に出してもネタバレとかそういうものを気にしなくていいと思うので、書いてみようと思います。

さて、この扇要という人物は作品内で最底辺の地位から、首相まで上り詰めた人物です。
彼は主人公が率いることになるレジスタンスのリーダー代役としてが初出になりますが、リーダーとしての才能は無く、すぐにレジスタンスのリーダーの座を譲り副指令になり、常に主人公の力を頼りにし、ロボットバトルの作中にあって戦闘能力は皆無でほぼ戦わず、それでいて敵大将の口車に乗せられ主人公を裏切り、最後には敵国和解の象徴として国際結婚し、幸せな家庭と首相の座を得ています。

え、クズじゃん。

そんな彼の処世術と組織運営方法について考えてみました。

■コードギアスって?

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 本作は、現実とは異なる歴史を辿った架空の世界において、世界の3分の1を支配する超大国「神聖ブリタニア帝国」に対し、二人の少年が異なる方法で対抗していく物語である。舞台は、神聖ブリタニア帝国の植民地とされ、呼称が「日本」から「エリア11」に、「日本人」から「イレヴン」と変わった近未来の日本となっている。
メインの主人公であるルルーシュ(ゼロ)は、母の復讐と妹の未来のため、いかなる手段を使っても帝国への反逆を遂行する(アンチヒーロー)。もう一人の主人公スザクは、父を犠牲にした贖罪のため、公正な手段をもって、帝国を内部から変革しより良い未来を目指そうとする。これまでのアニメ作品と比べ、メインとなる主人公の立ち位置が逆になっており、本作以降のアニメ作品にも影響を与えた。[要出典]
ロボットアクション以外にも、政治ドラマや学園物の要素を取り込んでいるのが特徴だが、それらの要素はあくまでエンターテイメントとして取り入れているだけとしており、ジャンルはピカレスクロマンと定義している。


そんな作品です。
超簡単に言うと、ダークナイト。
ピカレスクロマンとして完成された傑作です。


■扇要(おうぎかなめ)って?

 最初に書いた通りです。ルルーシュと最初期から係わり合いのあるレジスタンスのリーダー。ルルーシュが登場し、直ぐに副指令として席を譲ります。優柔不断で温厚で人望があるものの、際立った才能は無い。自分の大きな主義主張は無いが、感情に実直で後先考えない。他人を妄信する。自分にリーダーの才覚は無いことも自覚していたり。つまり、常に視点が目の前の事でいっぱいいっぱいで、その都度その都度正義が変わる、普通の人。


■扇の才能「持たざる者」

 彼は実直さ故に、あまり人に心を許さないルルーシュからも、古参メンバーからも、新参にも色々な人に信用されていました。あるいはその気質を利用されて政策に踊らされることもありました。

そんな彼の才能、それは、ウソがつけないこと(ウソが下手という意味。ウソ自体はつく)。あるいは臆病者あること。あるいは、無能であること。

扇要はある意味弱い人間の集合体のような存在です。言わばカリスマ的弱者。なんというか、情報弱者・バカ。彼と対照的に主要人物のほとんどが大義名分を振りかざし、信念をぶつけて戦っています。彼だけが、まるでジョーカーのような、どこにも所属していないのに、どこにも所属できる。「何も無い」を持っている男です。

何も無い人間の最大の強みは、好かれやすい、ということ。腹の底が無いようなものだから、あっても直ぐに見えるから、とにかく分かりやすい。分かりやすい人間というのはそれだけで信用を得られる。


■ルルーシュと扇の関係

 ルルーシュは卓越した頭脳と得体の知れない力で次々に奇跡を起こしますが、常に組織にとどまっては居ませんでした。戦いではゼロというペルソナで素性を隠し、学園ではルルーシュとしての私生活を送っていた、という二つの生活をこなしていたので。
一方扇は常に組織に席を置いています。別に何かするわけではないのですが。ルルーシュの作戦指示などは扇を通して行われるようになっていました。

連絡係なら別に扇じゃなくても良い、というわけでもないわけです。レジスタンスの彼らに集まってくる血気盛んな若者達は「俺が俺が」を強く主張してきます。一方の扇は、先代リーダーから任された組織の皆をうまくまとめることで精一杯。自分の主義主張も無いので、ルルーシュからの伝令を私情を挟むことなく通達できる。

ルルーシュというカリスマ単体でも、扇という受け皿単体でもこのレジスタンス(ルルーシュ加入後は「黒の騎士団」)はまとまらなかったというのを考えると、扇のような日陰の人間の重要性を感じさせてくれます。


■扇がクズとして批判される原因

 この作品の感想でよく「扇はクズ」という評価が下されてます。経緯だけなぞれば、自分の手は何も汚さず、何もせず最後にルルーシュを裏切り、挙句ルルーシュが悪を引き受け消えた世界で首相になり幸せな家庭を築いているわけですから、批判したくなってしまうのは当然。


■扇の出世術

というわけで扇の出世術を現代の組織運営に置き換えてみようかと思います。別にサークルでも何でもいいんですが。

一介の教師(フリーター)
親友の発起人とレジスタンス立ち上げ(志を持つ仲間に引かれ一緒に起業)
親友の死によるリーダー引継ぎ(社長逃亡後の事業引継ぎ)
ルルーシュの登場(天才事業家の登場)
ルルーシュをレジスタンスリーダーに。扇は副指令に。(経営委託。自分は副社長に)
ルルーシュによる黒の騎士団、快進撃(企業の成長・人材の確保)
不在のルルーシュへ溜まる不快感の受け皿になる扇(次々前に進む社長。社員の統率に専念する副社長が主に人望を稼ぐ)
ルルーシュの限界、迷走、低迷(社長の失墜)
敵国家首脳によるルルーシュの秘密露呈。そして裏切り。(社長を企業から追放する)
ルルーシュは全てにケリをつけ、舞台から去る(社長「企業が悪いんじゃなく、自分ひとりがやった問題だ」と刑務所へ)
扇は大きくなった組織を率い、首相となり国際交流の場へ(社長の功績で大きくなった会社で、大企業社長に)


■では扇はクズなのか

 A.ごくごく平凡な一般人です。
それも極めて合理的で、多くの人が持ってる体質を持った人間。作品としてカリスマを引き立てるための一般人ではありますが、信用し疑問を感じ裏切り…と、筋が通ってないようで「ただ生きる」という意味で筋が通ってます。彼の行為一つを抜き出してクズ認定するのは簡単なのですが、実に彼は「持たざる者」として合理的な生き方をしています。


■何の才能も無い人間がトップに居るから、出来る人間が才能を振るえる

 ゼークト組織論では有能な働き者は参謀向きであると言われています。ルルーシュは有能な働き者でした。黒の騎士団はルルーシュをリーダーにしていましたが実質の精神的主柱は扇でした。現にルルーシュへの裏切りを表明したとき、ほぼ全員がに扇に賛同したのが裏づけです(ルルーシュに後ろめたい事情があったとはいえ)実は扇はリーダーという名前を譲っただけでポジションは昔から一切変わっていなかったのだと思われます。ルルーシュも組織の統率に神経を裂かずに済んでいたのはやはり扇が居たおかげですから。

つまり扇のようなポジションの人間がいなければ、組織運営は円滑に機能しないわけです。何も出来ないある意味亀の歩みのような人間を軸に、出来る人間達が各々の力を振るう。これが組織運営の理想形態のように思います。そのリーダーを見て、自分の兜の緒を締めることで各々が成長する。


■扇は首相の器なのか?

 首相かどうかまでは分かりませんが、社長の器であることには違いないように思います。ただし、ベンチャービジネスではなく、円滑な組織運営を行う上での器。ベンチャーであればワンマンスタイルで進まないとならないので。扇もレジスタンス時代は実際組織の一員として働いてましたし。



■ちなみに扇は成功者なのか?

 肩書きだけ見れば、成功かもしれませんが、彼が本当に首相というポジションを望んでいたのでなければ幸せなのかはわかりません。ポジションとしての成功が彼にとっての成功かはまた別問題なので。今回の記事の目的にある成功者の定義を、高い地位を得る、とした場合では成功者です。


■ルルーシュと似た人間

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 ちなみにルルーシュと似た人間として描かれるディートハルトという報道スタッフが居ます。彼も扇と同じくルルーシュの「カリスマ性」に魅せられた人間。彼は饒舌で頭が良く切れ、どんなところにも上手く溶け込み、人を騙すことに躊躇も無く、扇やレジスタンスを利用しまさに「狡猾」を地で行くような存在でした。扇と同じく戦闘は行えないぶん頭のキレは抜群。その頭の良さからいつの間にか黒の騎士団の中核を担う存在に。彼もまた進んでゼロを裏切りましたが、彼には死という断罪が下されました。

ルルーシュへの裏切りという結果は同じで、後発ながら扇ともほぼ立場も同等の人間にまで上り詰めていましたが、扇と彼の決定的な違いは、嘘や策略ばかりが付きまとっていたこと。彼の後ろに人は付いて来ず、最後まで孤独に死を迎えました。

彼に必要だった人間は同じカリスマ性を持つルルーシュではなく、ディートハルトに自身にとって有益な人望を集めて留めてくれる扇のような相棒だったのだろうと思います。 逆に言えば扇のような存在さえ見つけて確保しておけば、彼も充分リーダーになっていた可能性があるということ。


■扇要の出世から私達クズが学ぶこと

 何の才能が無くても、寄り添う人間さえ見定めていくことで上にのぼっていけるし、何の才能も無いから皆の信用を得られる。何も無いこと、ただ素直に生きる、というのはそれだけ武器になるということ。ただし、一人では生きていけないということ。

創作物の話ですが、実際世の中見渡しても、極端な事例じゃないにせよそうして出世している人は居ると思います。

真面目系クズほど、ルルーシュになりたかったりルフィになりたかったり勇者様になりたかったりヒーローになりたかったり「とにかく優秀な人間でありたい」という願望があり、そのギャップに悩んでいるのではないかと思います。ですが世の中の見方を少しだけ変えるだけでいくらでも自分を有利なステージに立たせる事は可能である、と扇要の生き方が伝えてくれていると思います。



要するに人生にやりかたなんていくらでもあるんだ、ってことです。優秀な人間こそが絶対正義としてしまうと、こうした視点が得られない。「何も持たない人間」こそが必要な場面というものが確実に存在してるんだ、と認識したら少し気持ちが楽にならないでしょうか。

いや、ホント